「社員教育」 その2
状況に合わせ微調整を
Press release
  2000.08.19/観光経済新聞

状況に合わせ微調整

 従業員教育には、マニュアルや実地研修による従業員そのものの教育と、教育する側を育成する教育に大別できる。さらに教育は旅館・ホテルの基本姿勢を徹底させるものである以上、経営方針が明確に反映されていなければならない。その意味では、経営者が自らを高める諸々の経験も、教育の一項目と拡大解釈ができるほど奥深い。
 おまけに、これをなおざりにすると、経営に即響いてくる気の抜けないシロモノだ。
 だが、教育の根幹ともいえるマニュアルに対して、とかく毛嫌いする傾向もある。背後にはすべてを画一化するとの思い込みが見え隠れする。果たしてそなのだろうか。
 「お客さまを案内する時のエレベーターは、先乗り・後降りが鉄則」
 これを金科玉条のごとく守り続ける古参の仲居が、新参の仲居にそう教えこんだ。団体旅行が中心だった時代は、先に乗り込んで開扉ボタンを押し続けることで、確かにこの応対は正しかった。だが、旅行形態が多様化した昨今では、一度に多くの人間がエレベーターに乗ることも少なく、ドアが開扉している間に全員が乗り込める。そんな現実に照らすと、先乗りよりも、一声かけながら後乗りする方が理にかなっているし、日常でも一般化している。
 問題は、この乗り方の是非ではない。状況の変化に対応せず、機械的に決められたことだけが独り歩きをすることだ。そこに、教条主義や原理主義に陥る危険性がある。さらに、それ以上に現実的な問題は、変化した現実とマニュアル条項の整合性をいかに保つかである。書かれている内容が現実と乖離すれば、勝手な解釈で補足をする余地が生じてしまう。
 「私は違うと思う」と解釈した結果、従業員個々によるサービスの質の違いが生じる。お客の口から出る「いい仲居さんに出会えてよかった」との言葉は、そうでない場合があることの反面教師でもあった。こうしたバラツキの源は、一度つくったマニュアルを実情に合わせてメンテナンスしないことに起因する。
 教育には、社是としての根幹部分、一方で臨機応変な応用部分の整合が求められ、それがなければ画一以上に混乱を招いてしまう。中途半端なマニュアルは、ゆえに百害あって一利なしなのかもしれない。
(つづく)