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構造改革シリーズ:検証!ローコスト経営
”第2の創業”を目指す。 |
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宮崎県・松島海岸 「ホテル壮観 」 2000.07.08/観光経済新聞 |
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旅館の“ダイエット”
創業以来初めての償却後赤字
「ローコスト経営」の着手へ
20世紀の膿を出す――。
上岡社長がいう「第2の創業」とは、リストラクチャリング(再構築)ではない。「リエンジニアリング(再創業)でなければ既成概念はうち破れない」と語気が荒い。本来は温厚な人柄、同社長のイメージを「豪腕経営者」と答える人はまずいない。
総客室数124室、収容人数は600人をを越える。東武グループのホテル壮観は、グループ内でも稀(まれ)な旅館型大規模宿泊施設だ。
落ち着いた内装。レストラン部門も充実しており、連泊、泊食分離にも対応できそうだ、ハード面についての課題は少ない。
資本金6050万円、従業員数は200人を越える。昨年度、改正された宿泊業の「中小企業の定義」には当てはまらない。
年間総売上が約18億円、有利子負債額も年間売上と同額ほどある。エージェント依存度は8割近くで年間平均の部屋稼働率65.7%、定員稼働率では45.3%だ。
「リゾート地で部屋稼働率が60%を越えれば立派なもの」と言われる時代の終焉に気づいたのが一昨年だった。創業以来初めて償却後で赤字を計上した。
業界全体を悩ませる旅行形態の個人化による粗利の減少や低価格化の悪影響が影を落としていた。地方銀行の倒産が周辺都市の団体需要を冷え込ませた。決して珍しくない「大型施設の苦悩」が背景にあった。上岡社長が「このままではいけない。」と感じた矢先、企画設計(前・料飲企画設計)の松本正憲社長との出会いがあった。松本氏は財団法人日本交通公社の講師も務めるローコスト経営のコンサルタントだ。
相談したところ、松本氏は自ら3日間で事前調査し、「厨房、労務関係に無駄がある。年間1億円の経費削減ができる」と答えた。松本氏は?@調理場の効率的改革?A集中作業による従業員の効率化?B等級制導入による人事考課の見直し――の3つを柱とした。
年間1億円経費削減
人事考課に「等級制」を導入
パートの有効活用で効率化
まず、調理師、社員意識の改革のため、人事考課に等級制を導入した。終身雇用的「結果平等」から「機会平等」の給与体系に変えた。社員の等級制は表にして事務所に張り出した。週40時間労働制を実現させることで残業・休日手当を削減。部課長など中間管理職の肩書(外部向け肩書のみ)を排除することで、社長、支配人、副支配人に指示系統を集中させ、業務の混乱を最小限に止めた。
従来、経費節減のために人件費率を落とすとサービスが低下するといわれる。ところが、サービス面が逆に向上した。社員意識が変わったこと、客室係に後方作業をさせないためにサービスに集中できることなどが奏功した理由だ。
パートには既婚の女性労働者を採用した。独身時代、仙台などの大手企業に勤めていて、寿退社した人たちの中には「午前9時から午後3時まで働きたいという優秀なパート事務員がいる」(上岡社長)という。「旅館の場合、パートの方が事務能力が高い場合もある事を実感した。」と同社長は感想を述べた。
厨房改革で衛生管理
後方業務の現状を徹底分析
冷・温蔵庫を増設 フル活用
さて、改革の目玉、厨房改革の仕組みはこうだ。まず、温度管理ができる冷蔵庫、温蔵庫(従来の2台から6台に)を増設することで、15人いた調理人を8人にした。パートを活用し、午前9時〜午後3時に厨房の作業を集中させて、食器の分類、盛り付け作業の効率化を実践、業務のムラを平準化させた。
さらに、客室係と後方作業係に従業員の業務を分類。ここでもパート、アルバイトを有効活用することで正社員を削減した。200人規模の従業員数は変わらず、正社員比率は実施前の70%から40%になった。
バックヤードの整備では、配膳の現状を徹底的に分析し、効率化を図った。?@料理の仕分け?Aパントリー料理の保管?B料理を出す際の指示書の見直し――等を実施した。「温かいものを温かいうちに、冷たいものを冷たいうちに出す」ことで、衛生面の向上にもつながった。
従来、仕込み料理と盛り付けた料理が混在して置いてあった食庫を区分けし、配膳トレイ毎に食器を分類して収納する。配膳トレイに入れたままで盛り付けを行う工夫で作業効率を高めた。従来から二つあった厨房は、仕込み優先、盛り付け優先に分け、本館、新館の構造的な運営を見直し、保存設備を拡充することで集中盛り付けを可能にした。ちなみに、この取材当日、400人規模の宿泊客があったが、厨房はパートと8人の調理人で賄っていた。細部までマニュアル化したからだろうが、傍目から見ると手品のようだ。
客室係が厨房に入ることはない。後方作業係が大広間、客室まで食器の種類毎に盛り付けられた料理を運ぶ。サービス面への集中力を考慮して部屋係は宴会場、客室で並べるだけ。食器を下げる際にも種類が違う食器の混載を無くして効率化を図った。よく見ると、以外に単純な発送。まさに「コロンブスの卵」だ。
詳細は記載しきれない。8月23・24日、ホテル壮観を会場として、企画設計と共催で視察ツアーを実施する。経費だけを募る参加費にした。「百聞は一見にしかず」である。 |
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